◆Twitterには日々、様々なハッシュタグが生まれていますが、現在話題となっているのが…
『#村上春樹で語る育児』
育児に関する様々な"シーン"や"あるある"が、まるで村上春樹の小説の一節のように語られています。
#村上春樹で語る育児
あれ?
どんなに頑張っても小説はログアウトしちゃうのに、このタグのツイートはどんどんと読み進められる!
数多く寄せられる投稿の中から、村上春樹のファンならずとも思わず笑ってしまう秀逸作品を紹介します。
◆『結局のところ…』 その①
「それで」と妻は部屋を見回して言った…
「それで」と妻は部屋を見回して言った。
「あなたは何を見ていたのかしら」
壁に広がったクレヨンは、ジャクソン・ポロックの前衛絵画に似ていた。
「見ていたよ、ずっと」
「いいえ、見ていないわ。結局のところ、あなたは何も見ていないのよ」
妻の言うことはもっともだった。
#村上春樹で語る育児
◆『結局のところ…』 その②
いつから彼女はこうなってしまったのだろうか?
「嫌なの。」
結局のところ、彼女は僕の話を聞くつもりはなかった。いつから彼女はこうなってしまったのだろうか?僕は溜息をつき、黙って追いかけた。
「今日は長靴にするって決めていたの。」
外は晴れていたが、彼女にとってそれはどうでもいいことのようだった。
#村上春樹で語る育児
◆『結局のところ…』 その③
深夜2時、僕はひどく腹を立てていた…
深夜2時、僕はひどく腹を立てていた。
言葉にならない言葉で捲し立てる。
「どうしたの…?」
懇願するような、或いは全てを諦めたような顔をして、彼女は僕を抱きしめた。
違う。結局のところ彼女は何もわかっちゃいなかった。
縦だ。横ではない。ーー縦抱っこだ。
#村上春樹で語る育児
◆『やれやれ…』 その①
これはいけない、と直感した…
◆『やれやれ…』 その②
夏の空に気を取られていると何かが顔に触れた…
夏の空に気を取られていると何かが顔に触れた。感触と匂いでトマトの欠片だと判断した。ー離乳食ー。僕の脳が答えを弾き出す。投げた理由を彼女に問うと彼女は笑みを頬に微かに浮かべ、言った。「ないない」「おかし」。やれやれ、お手上げだ、と僕は冷蔵庫の縁に手をかけた #村上春樹で語る育児
◆『やれやれ…』 その③
彼女はスプーンを…
彼女はスプーンをテーブル―それは木製の椅子に付属している―からポトリと落としてみる。
やれやれ。
一回の食事を終えるまでにこの行為をどれだけ繰り返せば気が済むのだろう。
「ニュートンが万有引力の発見までにリンゴを落とした回数だってこんなに多くないと思うわ」
#村上春樹で語る育児
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「君は何を言ってるんだい」
「毎日毎日試されているみたい。私の忍耐力をね」
「仕方ないさ。彼女の重力はまだ見つかっていないんだから」
妻はスプーンを拾い上げた。その柄に印刷されたアンパンや食パンのキャラクター達は、この問題に対しては何の意味も持たなかった。
#村上春樹で語る育児
◆『やれやれ…』 その④
悪い予感と言うのは良い予感よりずっと高い確率で的中する…
「やれやれ」
僕は空になった鼻セレブの空箱とリビングの床に積もったティッシュの山を見下ろした、まるで虐殺じゃないか、悪い予感と言うのは良い予感よりずっと高い確率で的中する。
#村上春樹で語る育児
◆『やれやれ…』 その⑤
彼女はおもむろに冷凍庫の中から…
#村上春樹で語る育児
「わたしとにかく冷たい氷がたべたいのよ」
そう呟くと、彼女はおもむろに冷凍庫の中からひとつふたつと氷をつまみとり、それは魔法でもかけられたように小さな口の中へと消えていった。
「いくらでも食べられるの私って」
僕はわけがわからなくなってきた。
「やれやれ」
◆『完璧なものは存在しない…』
TVのスピーカーから小さな音でBGMが流れはじめた…
◆『何度も何度も廻った…』
彼女はくるりくるりと廻った…
彼女は柔らかな敷物の上で裸足になり、くるりくるりと廻った。何度も何度も廻った。
「目が回らないの」
私は彼女に問う。彼女の細い髪がふわりと舞って私の視界をけぶらせる。
「廻っているのは世界なの」
そんな笑顔を私に向けながら彼女は机に体をぶつけて泣いた。
#村上春樹で語る育児
◆『今夜も踊るのだ…』
もう、この台詞を言うのは何度目だろう…
#村上春樹で語る育児
もう、この台詞を言うのは何度目だろう。聞き入れてもらったことなどないというのに。
「明日の準備、終わったの?」
彼、もしくは彼女の耳は、その台詞をまるで葉っぱの上の水滴のように転がして音符にし、そして今夜も踊るのだ。
◆『今日も踊らされているんだ…』
不思議なもんさ…
不思議なもんさ。おもらししない奴は漏らすんじゃないかってビクついてるが、おもらしする奴は肌に絡む衣服の生暖かい感覚もアンモニア臭でさえも気づかずに夢見てられる。私は心地よい夢の中から残酷な現実に引き戻される。今日もグルグル回る洗濯物みたいに踊らされてるんだ。
#村上春樹で語る育児
◆『僕は逃げられないし、 逃げるべきではないのだ…』
それが僕の得た結論だった。
◆『静かに僕は訊ねた…』
彼は横たわり目を閉じていた…
◆『僕はびっくりして聞き返した…』
「靴下?」
「靴下?」
僕はびっくりして聞き返した。 いきなり見知らぬ通行人に話しかけられ、大きなハンマーで殴られたように混乱していた。
靴下?この炎天下で?
「よく分からないな」
#0歳育児
#村上春樹で語る育児
◆『好むと好まざるとにかかわらず…』
「つまりこういうこと?」
「つまりこういうこと?近いうちにテープからパンツに変えなければならない、けれどそのタイミングは分からない」
「そう」
僕は答えた。テレビからはピカピカブーが流れていた。息子の好きな曲だ。
「好むと好まざるとにかかわらず、僕たちはそれを適切に判断する必要がある。」
#村上春樹で語る育児
◆『悪いけど、あとにしてもらえないかな?』
彼女はあきれたような声を出した…
「悪いけど、今プラレールを組み立てているんです、あとにしてもらえないかな?」
「プラレール?」
彼女はあきれたような声を出した。
「あなたは朝の6時半にプラレールを組み立てているの?」
#村上春樹で語る育児
◆『彼女は少し首を傾げた…』
「ここに暖かな離乳食がある。鮭を柔らかく煮てあるんだ。」
「ここに暖かな離乳食がある。鮭を柔らかく煮てあるんだ。」
僕が言うと彼女はほんの少し首を傾げた。「どうかしら」という風に。
「カブとそぼろの中華風は?ブライアン・ウィルソンだってこれを食べたらウクレレを弾きだす」でも彼女は口を2ミリくらいすぼめただけだった。
#村上春樹で語る育児
◆『彼女は不機嫌そうに言った…』
「眠いの」 彼女は不機嫌そうに言った…
「眠いの」
彼女は不機嫌そうに言った。
「見ればわかるさ。眠ければ、寝ればいいと思うよ。きみのお気に入りの枕だって、熱くなった足を冷やす保冷剤だってある」
そう返すぼくに、あなたはまるでわかっていない、と言わんばかりの悲しそうな目をして繰り返した。
「眠いの」
#村上春樹で語る育児
◆『一生そんな風に生きていくつもり?』
「何故こんなになるまで放っておいたのよ」
「何故こんなになるまで放っておいたのよ」
「慣れちゃったんだ。おむつが重い事にも、泣かないでいる事にもね。それに遠くから見れば」僕は言った。「大抵のものは綺麗に見える」
「ねえ」彼女は器用に僕のおむつを替えながら首を振った。
「一生そんな風に生きていくつもり?」
#村上春樹で語る育児
◆『これはとても個人的な話なんだけど…』
ファミリー・レストランのテーブル席で彼は言った…
「これはとても個人的な話なんだけど」
ファミリー・レストランのテーブル席で彼は言った。
「そろそろ彼をあの台に連れて行ったほうがいいんじゃないかな」
あの台というのは、ふだん壁に向けて折り畳まれている、ぶっきらぼうなおむつ替え台のことだ。
#村上春樹で語る育児
◆『Uターンして…』
妻が言った。。
「Uターンして」妻が言った。「ここは東名高速だよ。たとえニキ・ラウダといえどもここでUターンはできない」と僕は答えた。「さっき替えたのに赤ちゃんがまたウンチした。オムツのストックがなくなる。名古屋まではとてももたない。」僕は無言で次のサーヴィス・エリアを調べた。#村上春樹で語る育児
◆『それで…』
妻は言った。。
「それで」妻は言った。「どうして貴方は寝かしつけもせずに際限無くあの子と歌っていたのかしら」「それは見解の相違さ」僕は控えめに言葉を紡いだ。彼女にとってこれはすでに弾劾裁判なのだ。「僕だって知らなかったよ。夕食後に一緒に歌を歌うだけで興奮して眠らないなんて」
#村上春樹で語る育児