オデッサの虐殺とはなんなのか?
『オデッサの虐殺』とはなんなのか?
陰謀論やロシアプロパガンダ界隈で、親ロ派がロシアの侵略戦争を正当化する材料としてよく上げられるものに「オデッサの虐殺」または「オデッサの悲劇」という事件があります。
そもそも、「オデッサの虐殺」なる出来事はどういうものなのでしょうか。
例えば、以下のような内容がSNSなどで拡散されている「オデッサの虐殺」の概要です。
「2014年5月2日、ネオナチ系組織はロシア系の組織に変装し、南部のオデッサでクーデター政権に抗議していた住民、50~100人を生きたまま火をつけて処刑した。最終的な死傷者は200名にものぼる。複数の死体にはレイプや拷問の痕跡があった。
主流メディアが報道しない、「オデッサの悲劇」である。」
この記事だけ読めば、ウクライナのネオナチ系組織による残虐非道な事件だと誤解を招きます。
しかし、実際の事件は上記の内容とはかなり異なります。
今回は、この「オデッサの虐殺」を実際のメディアの報道と照らし合わせてみたいと思います。
「オデッサの虐殺(悲劇)」という呼び方はロシアプロパガンダで使用されているのみで、歴史的事件の名称として公式に使用されている呼び方ではありません。メディアでもそんな呼称はされていません。
なので、Wikipediaには「オデッサの虐殺」というタイトルでのページは存在しません。
しかしながら、「オデッサの騒乱」というタイトルで、オデッサの事件について記載されているページがあります。
Wikipediaによる『オデッサの騒乱』についての解説
2014年オデッサの騒乱
2014年にウクライナのオデッサで起こった事件についての記事です。
Wikipedia英語版のサイトです。
オデッサの火災についてはかなり詳細に記述されています。
こちらを参照していただけるとわかるのですが、ロシアプロパガンダで流布されていることとは違い、BBCやCNN、AFP通信などの大手メディアの報道と矛盾しない内容となっています。
オデッサの事件では親ロ派の女性が強姦され焼かれたなどというデマが拡散され、遺体写真が捏造されたりしていたのですが、それらは捏造で嘘やデマが流布されたと、この英語版Wikipediaにも記載されています。
ちなみに親ロ派がウクライナの自作自演だと言っている「ブチャの虐殺」については歴史的事件として認定され独立記事として掲載されています。
ロシアプロパガンダとしての「オデッサの虐殺」の内容は書き手によって誇張、改変されていることが多く、実態がどういうものかほとんど不明です。書き手によって内容が好き勝手に創作され、内容も曖昧でバラバラ、整合性がないのです。
犠牲者数も40人だったり、100人だったり、死因も処刑だったり、焼死だったり、拷問だったり。
一度、SNSに掲載されているオデッサの事件について書かれている記事を読み比べてみるといいでしょう。
書き手によって内容にかなり乖離があります。
Wikipediaにはオデッサという都市についてのページがあるのですが、そこに2014年5月2日に起こったオデッサの事件について少しですが触れられていますので、見てみましょう。
「2014年の親ロシア派騒乱では、オデッサでも暴力の伴う衝突が起こった。2014年5月2日の衝突事件では親ウクライナ派と親ロシア派との間で42人の死者が出た。抗議中に4人が殺害され、火炎瓶の投げ合いによって労働組合庁舎に火がついたことで少なくとも32人の労働組合員が死亡した。2014年の9月から12月の間に行われた調査では、オデッサ市民にロシアへの編入を支持する者はいなかった。」
プロパガンダの内容にあるように「クーデター政権に抗議していた住民、50~100人を生きたまま火をつけて処刑した。」とか、「最終的な死傷者は200名にものぼる。複数の死体にはレイプや拷問の痕跡があった。なんて記載は過去の大手メディアのニュース記事をさかのぼってもどこにも存在しません。
なぜならそんな事実はないからです。
メディアにおいてオデッサの事件についての記事は存在しますが、ロシアプロパガンダで主張されているような内容は皆無でした。
プーチン応援団はこのオデッサの事件について、メディアが沈黙していた、報じなかったと主張しますが、当時のニュースを検索するときちんと報道されています。
次に、AFP通信の記事に、オデッサ事件の記事がありましたので紹介します。
『オデッサの騒乱』について海外メディアの報道
【5月3日 AFP】ウクライナ南部の港湾都市オデッサ(Odessa)で2日、31人が「犯罪行為による」火災で死亡した。
記事にはサッカーファンと親ロシア派が衝突と書いてあります。
そして「犯罪行為による火災」と書いてあるのですが実際のところは不明のようです。
拷問やレイプなどの記載はありません。
写真を見ても、Tシャツに短パン、リュックサックを背負ったひとが騒然としてるだけで、人が生きたまま処刑されているような状況ではなさそうです。
その後、オデッサの火災事件をうけて親ロシア派の集団がオデッサの警察署を数千人で襲撃したとあります。
【5月5日 AFP】ウクライナ南部の港湾都市オデッサ(Odessa)で4日、親ロシア派数千人が警察本部を襲撃した。
そして、「警察側が2日に身柄を拘束していた親露派戦闘員150人のうち、半数近い67人を釈放し、群集を落ち着かせることに成功した。」とあり、警察もだいぶ親ロシア派に譲歩していますね。
さらに詳しくBBCのサイトにオデッサ事件について書かれていますが、こちらは英語です。
ロシアプロパガンダにあるような内容はどこにも書いてありません。
火災の原因もいまいちハッキリせず、不明のようです。
A look at the events in the southern Ukrainian city of Odessa on 2 May, when 46 people were killed in violence between pro-Ukrainian protesters and pro-Russian rivals, most of them in a fire.
『オデッサの騒乱』は虐殺ではない
海外のニュースにざっと目を通しましたが、大方の見方は、
親ウクライナのサッカーファンが政治的なデモ行進をしていたところ、武装した親ロシア派たちによって待ち伏せされバットなどで襲撃されたことに端を発し、暴動につながったというのが一般的な見解のようです。武装した親ロシア派が銃を発砲したという記述もありました。
また、親ウクライナのデモ行進をしていた人たちはネオナチ組織ではなく、あるサッカーチームのファンで普通の一般市民という記述がありました。一部、右派セクターという極右組織の支持者も含まれていたようですが、多くは一般市民でした。
火炎瓶を投げたのは両者とものようです。
そして、建物火災で亡くなった人の多くは生きながら焼かれたのではなく、ほとんどが一酸化炭素中毒死でした。
数千人規模のサッカーファンの政治的なデモに対し、数百人の武装した親ロシア派がバットなどで襲撃したことが事の顛末なのですが、プロパンガンダでは真逆の内容に書き換えられているのですよね。
親ロシア派のデモがネオナチ組織に襲われたことになっているのです。
当時のニュース記事を読めばわかることなのに・・・
最後に虐殺の定義ですが
「宗教、主義、主張、グループ、民族、政治、結社、また、村や国家、軍によって、ある目的や、主張の元に形成された2人以上の集団により行われ、1人以上の反抗できない状態におかれた非戦闘員、一般の市民を殺人すること。 なおかつ、ジュネーブ諸条約に基づく戦闘に該当しない殺人。 」
とありますので、オデッサの事件については虐殺にはあたらないと思います。親ウクライナ派と親ロシア派の間で偶発的に起こった暴動がきっかけの不幸な事件だったということだと思います。
事件を矮小化するつもりもないですし、火災で四十数人の方が亡くなったことは大変、痛ましいとは思いますが、記事を読んだところ武装した親ロシア派とサッカーファンとの間に起こった暴動で、おそらく大混乱のカオス状態、警察にも軍にもどうにかできる状況ではなかったのではないでしょうか。
プロパガンダ的な記事に遭遇した場合は、鵜呑みにするのではなく、過去にさかのぼって記事を調べたり、海外の信頼できるニュースサイトに当たって調べてみるのがいいですね。
例えば、アメブロ内では「ウクライナ 女性も老人も10代の若者も焼き殺しました!!!」というタイトルでオデッサ事件に関する記事が掲載されているのですが、内容がもう突拍子もなく無茶苦茶です。ニュースソースも何もありません。
ほとんど書き手の想像と創作みたいな記事です。
冒頭に紹介したプロパガンダとも内容が違いますし、みんなそれぞれに好き勝手に言ってるだけです。ホントに想像力豊かだなと思います。
こういうのに引っかかってしまうひとがいることがもう残念ですね。
ある事実が誇張され、歪められ、デマとなり拡散されていく様子がわかる例だと思います。
ちなみに、この「オデッサの騒乱」については、欧州評議会(Council of Europe)において検証がなされており、報告書も出ているようです。
リンクはこちら。