◆『自販機の前でたむろする2人組の男…』
自販機の前でたむろする2人組の男
「明日はどこへ攻め入ろうか」
「ここ」
◆『家に帰ると彼女が…』
家に帰ると彼女が倒れていた…
《創作》140字の物語 by 神田澪@初書籍 最さよ 発売中@miokanda
家に帰ると彼女が倒れていた。ちょっと外へ出ていた間に、一体何があったのか。「どうしたの!?」「ちょ、ちょっとアレルギーが」今日が初めてのお家デート。まさか僕の家に駄目なものが置いてあったのか。「私ね……重度の元カノアレルギーなの」彼女の手には処分し忘れていた写真アルバムがあった。
◆『彼氏との初デート…』
彼氏との初デート。私は思いきって長年の夢を語った…
《創作》140字の物語 by 神田澪@初書籍 最さよ 発売中@miokanda
彼氏との初デート。私は思いきって長年の夢を語った。「私、彼氏ができたら一緒にボートに乗りたいと思ってたの」夕焼けに染まる湖の上に二人。ベタだなあと呆れられるかと思ったのに、彼はぱあっと目を輝かせた。「俺もすごい興味あったんだよね!」週末、彼と私は荒れ狂う急流を小型ボートで下った。
◆『望遠鏡で町を覗き…』
望遠鏡で街を覗き、ビールを飲むのを愉しみにしている…
望遠鏡で街を覗き、ビールを飲むのを愉しみにしている。
変態住職に窃盗女、昼間からしてるカップル。
今日もビールが美味い。
ある日、差出人不明の手紙が届く。
覗キ野郎
見テルゾ
俺は慌ててカーテンを閉め、しばらく立ち尽くした。
それ以来、部屋のカーテンを開けたことはない。
◆『電車の向かいの席に座る彼女は…』
電車の向かいの席に座る彼女は私をずっと見つめている…
電車の向かいの席に座る彼女は私をずっと見つめている。気品のある美しい淑女だ。目が離せない。視線が刺さる。彼女は唇だけ動かして何かを呟く。空気になった言葉たちは、なぜか私の胸を騒つかせる。終着駅。彼女はこれ見よがしに何かを落とす。拾い上げたそれは私しか持っていないはずの写真だった。
◆『睡眠薬下さい…』
「睡眠薬下さい」僕は毎週月曜の仕事帰り、家から一番近い薬局でそう言う…
「睡眠薬下さい」僕は毎週月曜の仕事帰り、家から一番近い薬局でそう言う。「睡眠薬下さい」そろそろ店員も気づいているようだ。またあいつだ。そんな目で僕を見る。「睡眠薬、」「はい」レジチェッカーのおばちゃんは、僕の言葉を待ってはくれずに大量に何かを置いた。「辛いときは美味しいもの、ね」
◆『皆様、お忘れ物はないですか?』
「皆様、お忘れ物はないですか? 財布に携帯、パスポート…」
「皆様、お忘れ物はないですか? 財布に携帯、パスポート。旦那様や奥様をお忘れではないですか?」
冗談めかした添乗員の台詞に、ツアーの参加客から笑いが起こる。僕も笑いながら、どこか不安になっていた。
バスの隣は何故空席なのだろう。果たして僕は、本当に一人参加だったか。
#140字小説
◆『整備士は…』
整備士は汚れ仕事だ。指先にグリスが染み込むし、廃油をかぶることもある…
整備士は汚れ仕事だ。指先にグリスが染み込むし、廃油をかぶることもある。今のようなオイルの抜き換え時は要注意だ。
視線―隅から少年が覗いていた。
「汚れるから向こうで待っててね」
少年は首を振った。
「やだ!カッコいいから見てる!」
胸の奥が燃える。誇りはきっとそこにある。
#140文字小説
◆『月が綺麗ですね…』
「月が綺麗ですね」をどこかの文豪は「I LOVE YOU」の和訳に当てた…
#140字小説
「月が綺麗ですね」をどこかの文豪は「I LOVE YOU」の和訳に当てた。
月が綺麗かどうかなんてその人にしか分からない。でもそれを相手と共有したいと想ってしまうのが日本人の心なのかもしれない。僕もこの綺麗な月をずっとあなたと見ていたい。だから、あえて言うよ。
「月が綺麗ですね」
◆『つま先を赤色に染めて…』
つま先を赤色に染めて、見せないように隠す…
◆『髪を、切ってくださる?』
「髪を、切ってくださる?」美しいその人は何時もぼくに髪切りをせがむ…
「髪を、切ってくださる?」美しいその人は何時もぼくに髪切りをせがむ。「また、失恋ですか」「今度こそ結婚と思ったのだけれど」触れた髪から杏が香った。「男運がないね」というと、ふふ、と笑み崩れる彼女の髪を、ずっと切りたいと思った。ぼくのため、伸ばすその日が来るまで。 #140文字小説
◆『彼は甘いものが苦手なので…』
彼は甘いものが苦手なので、バレンタインはコーヒーゼリーを初めて作った…
彼は甘いものが苦手なので、バレンタインはコーヒーゼリーを初めて作った。けれど苦くなりすぎて、渡すのが怖くなる。「やっぱり買ってきていい?」直前にそう言った私に、彼は首を横にふる。ゼリーを口にして一言。「まずいけど嬉しい」彼はどこまでも正直者で、来年は成功してみせると心に誓った。
◆『私の前にサンタが現れた…』
私の前にサンタが現れた。だが私が欲しいのは…
私の前にサンタが現れた。だが私が欲しいのはこんな夜に無駄話でもしながら一緒に過ごせる友人だ。それは袋に無いだろう。だから余所へ行ってくれ、君を待ってる子供は大勢いる。するとサンタは笑いながら袋から酒瓶を取り出した。「配達なら終わったんだ。だから愚痴でも聞いてくれないか」#140字小説
◆『通勤電車の中…』
通勤電車の中、女子高生達の潜めた声…
◆『20時19分…』
─20時19分。彼女が約束に遅れるなんて珍しい…
──20時19分。彼女が約束に遅れるなんて珍しい。恋しさに心配が混じる。
──20時19分。待ち合わせは20時。遠距離の彼と久しぶりののデートなのに、電車を間違えるなんて。
「ごめんなさい!」
泣き顔の私に、彼は微笑んだ。
「結婚しよう」
もう、待ち合わせをしなくてもいいように。
#140字小説
◆『当時好きだった戦隊ヒーローと一緒に…』
当時好きだった戦隊ヒーローと一緒にポーズを決める僕の写真…
当時好きだった戦隊ヒーローと一緒にポーズを決める僕の写真。思い描いていたヒーローになれたかい? と、写真の中の僕が問いかける。僕は首を振って腕時計を見た。もう行かなきゃ。かっこいいヒーローにはなれなかったな。泥だらけで汗臭い毎日。でも誰かの役に立つって、そういうことだと思うんだ。
◆『私は優しいと言われているけどね…』
「私は優しいと言われているけどね、実は上っ面だけなんだよ」
「私は優しいと言われているけどね、実は上っ面だけなんだよ」
百年の間人々に優しくしてくれていた仙人が、ぽつりと言った。
「本当は誰の人生にも責任を持てないんだ」
ごめんね、と言われたので首を横に振る。
「百年も続けてこられたんだから本当に優しいんだと思う」
仙人が泣くのを初めて見た。
◆『10年前に亡くなった母からの手紙は…』
10年前に亡くなった母からの手紙は、ある日突然冷蔵庫の下からひょいと出てきた。