イヤホン
イヤホンが壊れてしまった。安物なのか、それとも。
9,800円で昨日購入したばかりのイヤホンが壊れてしまった。一日中音楽を大音量で聞いていたせいだろうか。
テレビも映像が映るのに音が出なくなってしまった。腹が立ったのでイヤホンもテレビも叩き壊してやった。
気晴らしに散歩しに外へ出ると、その日はいつになく静かだった。
解説
壊れたのはイヤホンでもテレビでもなく、自分の耳だった。
プロファイリング
連日報道された幼女の誘拐事件。兄はもう殺されてると言った。
そして兄の手を見ると、土がついていた。
連日報道される幼女の誘拐。
手がかりがなく捜査は難航している。
「もうとっくに殺されてるのに、警察もご苦労なこって」
一緒にテレビを見ていた兄が言った。
「でたぁ! うんちく大好きな兄ちゃんの、なんちゃってプロファイリング!」
茶化しているときに気がついた。
兄の手が土で汚れていることに……
こいつ……まさか……
「おめぇ、アレを掘り起こしたんかぁ!」
私は兄に向かって怒鳴った。
解説
幼女誘拐事件の報道を見て、「殺されている」と断言する兄の手が、土で汚れていることに気がついたとたん、語り手が豹変したのはなぜか。
人はやましい気持ちがあると、些細なことで怯えたり、逆上したりするもの。
兄の手が土で汚れていたとしても、庭の手入れや畑仕事をしたと思うのが普通であるにもかかわらず、カッとなった語り手の言動から導き出されるのは、兄が自分にとって不都合な何かを掘り出してしまったと勘違いしたということ。
すなわち、語り手が幼女誘拐した後、殺して遺体を埋めたということである。
でるんです
うちのアパートには幽霊が出る。盛り塩に触ると痛みが。
うちのアパート……出るのよ。
え?
何がって? 「幽霊」に決まってるじゃない!
家族の霊っぽいんだけど、朝から晩までいて、子どもなんてベッドに侵入してくるの!
ありえないでしょ?
盛り塩?
それ、効果あるの?
やってみるよ!
あれ?
塩触ると痛いんだけど。
何これ。
私、塩、怖いっ。
解説
塩に触ると痛がる語り手こそが「幽霊」。
死んだことに気がつかず、住んでいた場所に居座っていた霊にとっては、引っ越してきた生身の人間のほうが、自分の存在に気がつかず、好き勝手に振る舞う異質な存在なのかもしれない。
もしかしたら、あなたの住んでいる部屋にも、霊がいるかも?
ママ
「ママ、今から帰るからね」
「うん、わかったー」
「ちゃんとお留守番してた?」
「うんー」
「ケーキ買って帰るからね」
「うんー、あ、誰かきたー」
「宅急便屋さん?」
「待っててー」
「行かなくていい!」
「おまわりさんだったー」
「開けちゃダメ!」
「もうここにいるよー」
10年後、母とはまだ会えていない。
私から母を奪ったこいつらを、私は許さない
解説
お留守番をしていた子どもが、自分の母親だと思っていた人は、実は誘拐犯。
誘拐犯が不在のうちに救助に来た警察によって保護されたのです。
しかし最後の文章を見る限り、視点主は未だに誘拐犯を「母」だと思い込んでいるようにも解釈できます。
いわゆる「ストックホルムシンドローム」が幼い子と誘拐犯のあいだで成功しているのでしょう。
パズル
やっぱパズルっていいよね!
最近一人暮らしするようになって、
部屋のインテリアとして、パズルを飾ることにしたんだよ。
光を浴びて、暗くなると光るってやつで、その光が儚くていいんよね。
この前も夜帰ってきたら、そのパズルが淡く光っててさ、
なんか出迎えてくれているようで癒されたんだよ。
またパズルやりたくなってきたし、
今度は同じサイズで2000ピースのやつ買ってみるかな。
解説
光を浴びたあと暗くなると光るパズルが、なぜ自宅に帰ってきたときすでに光っていたのでしょうか。
直前まで家の電気がついていたということですね。
冒頭で一人暮らしであると語られているので、空き巣あるいはストーカーが直前まで家の中にいた……もしくは、今も家の中にいると考えられます。
小旅行
昨日は海に足を運んだ。
今日は山に足を運んだ。
明日はどこへ行けばいいんだろう。僕は頭をかかえた。
日が暮れたので、重い腰を上げ家に帰った。
解説
海と山に片足づつ運び終わったので、次は頭部をどこへ捨てようか考えている。
【意味怖】屋上の少女
僕は屋上で夕日を見ながら食べるコンビニのおにぎりが大好きだ。
その日も一人で屋上に行ったのだが、先客がいた。髪が長く色白の可愛らしい女の子だ。一目惚れってやつかもしれない。
その子と目が合った次の瞬間、僕は人がこいに落ちた音を初めて聞いた。
解説:恋ではなく恋に落ちた