◎USJ再建の立役者森岡毅CMO退任
「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)」を運営するユー・エス・ジェイ(大阪市)は16日、同社の経営立て直しを主導した森岡毅執行役員チーフマーケティングオフィサー(CMO)が来年1月末に退任すると発表した。
森岡毅氏
2010年6月、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)からUSJに転身。「ハリー・ポッターエリア」など大型アトラクションを導入し、世界有数のテーマパークに育て上げた。入場者数は10年度の約700万人から15年度には1390万人と倍増し、V字回復の中心的な役割を果たした。
◎2010年、P&GよりヘッドハントでUSJへ招かれた森岡毅氏
入社のきっかけは、P&Gでの抜群の実績に目をつけた当時のCEOグレンガンペル氏によりヘッドハントされた。
◎オープン時1,102万人の来場者が730万人台まで落ち込んでいたUSJ
森岡の入社当時に730万人台まで落ち込んでいたUSJの年間集客
◎森岡氏がまず手がけたのは「小さな子連れファミリーを獲得」
“大人向けのテーマパーク”というイメージからターゲットが不必要に狭くなっている状況に気づき、戦略を「小さな子連れファミリーを獲得すること」とした。
子供のいる家族が1日いても楽しめる新エリア「ユニバーサル・ワンダーランド」を建設すると決めたのである。
ユニバーサル・ワンダーランド
このエリアはファミリー向けの人気キャラクターたちの住む“街”をイメージしたエリアで、開業10周年のフィナーレを飾るエリアである。
ユニバーサル・ワンダーランドの集客効果を柱に、2013年には年間集客が1050万人を記録。
◎「ハロウィーン・ホラー・ナイト」の成功
森岡は自らの米国在住期間に体験した本場のハロウィン文化(子供達が仮装して、日頃は表に出せないダークサイドを表に出して熱狂しても許される)を、ストレスを溜めているのになかなか発散できない日本の大人の女性をターゲット
ハイクオリティにメイクされたゾンビを大量に園内に展開し、様々なホラー演出と組み合わせて、女性が絶叫してストレス解消できる空間をつくった。
森岡の指揮で2011年以降もハロウィンに計画的に投資を行ってきたUSJは、2015年10月に175万人もの集客を記録し、東京ディズニーランドを抜いて集客数日本一になった。
◎総投資額は450億円で「ハリポタ」エリア計画を発表!
「ハリー・ポッター」シリーズの世界観を再現したテーマパーク「The Wizarding World of Harry Potter」をオープンすると発表した
開業は2014年後半で、総投資額は450億円を見込む。
◎完成するまでの間は、投資費をかけずに強烈な集客効果を…
「予算的には既存のアトラクションをリノベーションするしかない」
◎森岡氏は新しいアイデアを必死に考え続けた
例年通りで特別に何もしなければ10~15%の集客が減ってしまうと予測した森岡は、設備投資費をかけずに強烈な集客効果を発揮する2013年用の新しいアイデアを必死に考え続けた。
◎ジェットコースターを後ろ向きに走らせる『バックドロップ』
その1つが既存のジェットコースターであるハリウッド・ドリーム・ザ・ライドを後ろ向きに走らせる『バックドロップ』であった。
ある晩、USJのジェットコースター『ハリウッド・ドリーム・ザ・ライド』が後ろ向きに走る夢を見たんです。跳ね起きて枕元のアイデア・ノートに書き込み、朝には会社でそのアイデアを発表していました。
バックドロップ
開催初日の3月15日には最大で約450分(7時間半)待ちとなり、USJのアトラクションの待ち時間の記録を更新した。更に21日には約580分(9時間40分)を記録し、当時日本国内のアトラクション最長の待ち時間を記録した。
◎2014年7月に「ハリー・ポッター」の新エリアをオープン!
国内外からの集客増につながった。
ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター
ハリーポッターの世界観が忠実に再現され大きな評判を呼んだ。
入場者数が、2015年2月、過去最多を更新した。これまでの記録は開業した2001年度の1102万人
◎森岡毅氏の入社後はUSJ入場者数は倍増!
入場者数は10年度の約700万人から15年度には1390万人と倍増し、V字回復の中心的な役割を果たした。
売上高が700億円以下だったときに、約450億円の投資を提案しました。ほぼ全員に反対され、社長(当時)のグレン・ガンペルには「会社を倒産させる気か」と言われました。
いかにも森岡は“天才型のヒットメーカー"だと思われるかもしれない。しかし、本人によれば、数字が得意なバリバリの左脳人間。「クリエイティブなひらめきでアイデアを生み出すなんて、とんでもない」と否定する。
もちろん、アイデアがお告げのように降りてくる森岡のようなケースは稀だろう。しかし「ある問題について、地球上で最も必死に考えている人のところにアイデアの神様は降りてくる」という森岡の言葉には、努力のぶんだけ説得力があるのだ。
特筆すべきはこの間、森岡がUSJのチケット料金を大幅に値上げしながら集客数を倍増させたことである。
着任当時から入場料金は5800円から7400円へ、年間パスも10500円から22800円へ大幅に値上げされている。
◎退任にあたって「全力を尽くしたので後悔は1ミリもない。」
夢だった任天堂のゲームをテーマにしたエリアを仕込むところまでが自分の仕事。任天堂エリアの発表が終わった平成28年度が仕事納だと判断した」
「全力を尽くしたので後悔は1ミリもない。重要だと思ったことはほぼ全部できた。就任当時は入場者が730万人程度だったが、28年度は1450万人が見えるところまで来ている。入場者を増やし、勝ち続けることができた」
◎やり残したことは…
沖縄県の新テーマパーク構想はやり遂げたかったという思いはある。
ただ、あれは(昨年11月に運営会社を買収した)コムキャストの判断。コムキャストの判断としてはああなるだろうと理解できるので納得はしている。なので、今回の辞任と沖縄の新パーク断念は関係ない
◎残る社員へのメッセージは
「自分が構築したシステムやノウハウは置いていく。任天堂エリアは巨額の投資でとてつもないものになる。しっかりと協力していいものをつくりあげてほしい」
◎気になる退社後は?
「まだ決まっていない。自分の力を発揮できる新しいプラットホームを探していくことになる。マーケティングの導入が遅れている業界や会社が対象になるだろう。技術先行型の業界や既得権益に守られている業界などは、まだまだマーケティングを生かす余地がある」